みんな夢の中

 蓮の花が咲く池のほとりをのんびり歩いていたあなたはある日突然、神さまからトントンと背中をたたかれ、こう言われる。
「これからあなたは長い夢を見る」
「えっ! 」
「ま、そういやがらずに。なに、100年もかからないよ。あっちの生活は、迫力満点の精巧なホログラフィーテレビを見るようなもの。番組は無限にあるから、どれでも好きなのを見るといい。番組に飽きたら、いつでもチャンネルを変えなさい。心をそっちに向ければ、一瞬のうちに切り替わるから」
「えっ! いきなりそんなこと言われても」
「番組の主役は、いつでもあなただよ。あっちの世界はこっちにいるよりずっとスリリングで刺激的だと思うよ。じゃ、楽しんでおいで!」
 神さまからウインクされた瞬間、あなたは青い惑星にヒュッと放り落とされる。そして、新しい人生がスタートする。

「選ばれた者」として日々の雑事に追われるうち、やがてあなたは「流れには逆らえない」とか「現実を変えるのは非常に困難だ」などと思い込み始める。で、見たくもない番組を延々と見続けることになる。つまらない番組に縛られる必要などひとつもないにも関わらず。
 そもそも、私たちが見ている番組は流れる雲のようなもので、本人の気分に応じて絶えずふわふわとあらすじを変えている。実体がないのだ。
 実体がないものに必要以上にとらわれると、どんどん萎縮してしまう。ひどくなると、受像機としての自分が壊れてしまうこともある。だから「もうこの番組は見たくない」と思ったら、その場で周波数を変えてチャンネルを切り換えればいいと思う。
 で、チャンネルの変え方。やりかたは簡単。「もっと楽しくておもしろい番組を見よう」と意識するだけ。

 その昔、こういう歌があった。
「喜びも悲しみも みんな夢の中」
 どうせ見るなら、楽しい夢を。

2010.01.31