午未天中殺のみなさんへ その5

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全国の午未天中殺のみなさんこんにちは。
・・・もうすでにパッキングを終えられ、それぞれのお席にきちんとお座りいただいておりますね、さすが午未のみなさんは手際がよろしいです。

はい、わたくし本宇宙船午未号のチーフCA、午・未(うま・ひつじ)です。
2014年立春から始まりましたこの大宇宙の旅も、2016年の節分をもちましていよいよ終了となります。大変お疲れさまでございました。

いかがでしたか2年間に及ぶ大宇宙の旅は?
はいウマ谷さん「手強いトラブルに遭ったことで経験値が上がり、どんと来いな気分になりました」、ウマ十字さん「辛い別れがありましたがこれでよかったかもしれません、貯金できるようになりましたもの」、ヒツジヶ丘さん「耳の下が腫れておたふく風邪かと思ったらストレスから来る帯状疱疹でした。体調を崩してはじめて健康のありがたみがわかりますね」、メリーさん「いつもと変わりませんでした」。

はい、みなさんそれぞれ貴重なご体験をされたようですね。メリーさんのように「別に」「特に」「全然」と感じる方もいらっしゃいますのは、宇宙船午未号は大きな揺れが少ないからなのです。
寅卯号や辰巳号のようなジェットコースター級の急上昇&急下降&スクリュー回転もなく、ただひたすらおだやかに淡々と朴訥に飛行いたしますのが本船の大きな特徴と申せましょう。
運命学では「性格が運をつくる」と申します。「おだやか」「冷静」「動じない」などの気質を持つみなさんだからこそ、このような比較的起伏の少ない宇宙旅行となったのですね。

とはいえ、この宇宙空間とみなさんのふるさと・地球とでは環境が大きく異なりますので、ご自分でも気づかないうちに心と身体に大きなストレスがかかっていることと存じます。「全然だいじょうぶ」「たいしたことない」「あっけなくてつまんない」「なんならもう2、3周してやろうか」と思っても、ここはあまり無理をなさってはいけません。
地球の重力に慣れるまで最大約半年かかると想定して、帰還後はゆっくりじっくり心身をいたわりながらペースを取り戻されますように。無理やあせりは禁物です。

さて旅の記念といたしまして、これからCAがみなさんのお近くにワゴンを押してまいります。前のシートポケットにメニューパンフレットがございますので、よろしければご参照ください。
今月のおすすめは時間が後ろ向きに進んでまいりますジュエリーウォッチ「あの日に戻りたい」、有馬記念優勝馬の馬蹄をそのまま磨き上げたブレスレット「必勝」、羊毛フェルトの温もりがうれしいウォレット「紙食い虫」、「平常心」と筆書きされたネクタイちなみに「克己心」バージョンもございます、ウマとシカもといウマとヒツジのかわいいイラストがプリントされたTシャツ、「人徳・美意識・洞察力」の三つの単語が書かれた大判ショール、そして宇宙限定品の午未まんじゅう(こし、つぶ)など各種豊富に取りそろえてございます。
ご希望の方は遠慮なくCAにお声かけされ、空のショッピングをお楽しみくださいませ。

・・・さてみなさん、本船は地球帰還に向けて予定通り順調に運行しており、間もなく大気圏に突入いたします。シートベルトがきちんと装着されているかどうか、いま一度お確かめください。
またお手荷物などは前のお座席の下もしくは頭上の収納棚にお入れください。座席のリクライニングやフットレスト、前のテーブルは所定の位置にお戻しくださいますように。

窓の外をご覧ください、地球ではみなさんの帰還を祝福するかのようにライスシャワーが飛び交っておりますね、実はあれはライスではなく、節分の豆まきなのです。北東の鬼門方向から時計回りに「鬼は外、福は内」と叫びながら豆をまくことによって鬼が出て行く、つまり厄が祓われて清浄な空間となり、暦上で2月4日の立春から始まる新年をすがすがしく迎えようというわけです。

本日の気温は平年並かやや低め、全国的に厳しい寒さとなりそうです。・・・あ、ちらほら雪が舞っているところもありますね、地面が白一色に染まってとても美しいです。
花嫁が白無垢を着るように、白は原点の色であり、新しいスタートを切る色です。
これから地球で始まりますみなさんの新しい人生も、色で例えるなら白です。と申しましても単純な白ではなく、憂いを帯びたブルーやシルバーやグレーの上に塗り重ねられた白、重層的な深さと奥行きのある白、一筋縄ではいかない白、クールな気品が漂う凛々しい白です。

この2年間でみなさんとおつきあいさせていただくうち、みなさんの横顔や後ろ姿にある特別な「美しさ」が備わっていることにわたくしたちCAは気づきました。それは「孤独」に裏打ちされた美しさです。
「人間はひとりで生まれ、ひとりで死んでいく」という真実を生まれながらに悟っている強さ、賢さ、潔さをあなたがたはお持ちなのです。

午未のみなさんは、おのれの中に一本はがねの筋が通っています。ですから本当は繊細なのに、滅多に弱音を吐きません。苦しいときや悲しいときも安易に人を頼らず自分を律してバランスを保ち、やるべきことを淡々とやり遂げていく。困っている人が身近にいたら、自分のことをさておいて手を差し伸べる。責任ある仕事を任されたら、決して相手の信頼を裏切らない。
それが午未のみなさんの美学です。みなさんがいるからこそ、世の規律と品格と平和は保たれていると言っても過言ではないでしょう。

わたくしたちCA一同、みなさんとご一緒できましたことをうれしく光栄に思います。
どうぞ地球に帰還されてからも本船の卒業生であることを忘れず、自信と誇りと希望を持ち、光射す明るい道を背筋を伸ばして歩かれますように。

最後になりましたが、船長からメッセージがございます。ええとカードはどこでしたでしょう、ああありました。
「The Oscar goes to・・・ 」
このギャグ辰巳号でもやりましたね、アカデミー賞が近いものでつい。もとい。
「午未天中殺のみなさん、長い間お疲れさまでした。あなたが今まで我慢したこと、苦労したことは決して無駄になりません。それらは幸せという名の甘い果実に姿を変え、やがて天からたんと降り注ぐことになるでしょう。どうぞお楽しみに」

さて、ただ今をもちまして船内販売、船内オーディオサービス、映画上映サービス、軍艦ゲームのお相手を終了させていただきます。
これから船体が完全に停止しますまで、今しばらくお席に座ってお待ちください。シートベルト着用サインが消えましたら、どうぞゆっくり席をお立ちください。

午未天中殺のみなさんに幸いあれ。すてきな人生を。
それでは12年後にまたお会いしましょう。
Good Luck、Thank You。