マンション選びの極意

「ここも手狭になってきたし、そろそろ買おうか、家」
 春先にそう考えて、「今年こそは」と物件探しを始める人も少なくないのではなかろうか。新聞やテレビで「不況」「不景気」と騒がれようと、人は買うときは買うのである。で、マンションの物件探しのコツをいくつか。 

◆中古か新築か
 そりゃもう、古いより新しいほうがいいに決まっている。家は消耗品だからだ。住めば住むほどあちこち傷んでくる。
 また中古は前の住人の痕跡があちこちに残っているが、新築はすべてが無垢の状態なので、よけいな思念やストレスを感じることなくイチからスタートできる。
「でも、中古のほうが安いじゃん」
 そのとおり。住みたいエリアに住みたい建物がすでにあって、築年数もまあ許せる範囲で、管理状態がいいなら、もちろん中古もありだ。しかし仲介手数料やリフォーム代などを加算すると、「結局あんまり差がないじゃん」ということもあるので注意されたい。

◆1階か最上階か
「小さな子どもがいる」「地に足をつけて生活したい」「庭でガーデニングを楽しみたい」「エレベーターがきらい」という人は1階、それ以外の人は最上階がおすすめだ。周囲を高い建物に囲われていなければ最上階はその建物内で最も見晴らしがいいうえ、日当たり、風通しも期待できる。また上階に人が住んでいないため、物音や足音などにわずらわされる恐れもない。絶対ではないが防犯面でも下の階よりは安心できる。
 だからこそ、最上階の物件はなかなか手に入らない。新築なら「もう売れちゃいました」、中古なら「めったに出ません」「お値段お高めですけどいいですか」と言われるのが普通である。
 もし最上階が無理なら、上階に住戸のない部屋を選ぶといいと思う。 

◆角部屋か中住戸か
 電車の座席で最初に埋まるのは端の席。両端があいてない場合、乗客は仕方なく中間に座る。つまり、人は人と距離を置きたい動物なのである。
 家も同じ。両隣を他人にはさまれた中住戸より、角部屋のほうが開放感があって住みやすい。窓が多い分、風通しがよくなって邪気を祓いやすいというメリットもある。 

◆東南向きか南西向きか
「東南向きの部屋がいい」とよく言われるが、日照時間は南西向きの部屋のほうが長い。つまり東南向きの家は冬寒く、洗濯物も乾きにくいということ。南西向きなら冬温かいうえ、上層階なら夕方になっても家の中が明るい。つまり1日が長くなる。
 朝早く出て夜遅く返ってくる人なら東南向きでいいと思うが、家にいる時間が長い人は南西向きのほうが楽しい。  

◆奇抜なデザインかオーソドックスな外観か
「いまふうで格好いい!」と派手な色づかいや形状のデザイナーズマンションにあこがれる人もいるが、買う前に20年後、30年後を想定してみたほうがいい。そのマンションはもしかすると色が褪せ、デザインが風化し、時代遅れになってしまうかもしれない。
 私は昔、「何年か前に○○デザイン賞を取った」という家を訪問したことがある。コンクリート打ちっ放しの無機質なつくりで、部屋の中央に螺旋階段があった。実際に室内を歩いてみて「寒々しいし、掃除しにくそうだし、住みにくいだろうなあ」と感じた記憶がある。
 流行とは「流れて行く」と書く。つまり、はかないのだ。
 ならば、シンプルでベーシックなマンションのほうがいい。変なひねりがないぶん、飽きが来ないからだ。特に将来、売る可能性があるなら、万人受けするオーソドックスなマンションがいい。
 また「類は友を呼ぶ」の法則通り、奇抜な外観のマンションには変わった人、オーソドックスなマンションには普通の人が住む傾向がある。「変わった人たちに囲まれて暮らしたい」という人以外は、普通のマンションに暮らすほうが無難と思う。 

◆四角形の間取りか変形の間取りか
 家相の本には「張りや欠けのない四角い間取りが吉」とよく書いてあるが、あながちそうとも言い切れない。
 私は以前、四角い間取りの家に住んでいたことがある。きれいな長方形で、張りも欠けもなかった。家相は悪くなかったが、実際に住んでみて「味も素っ気もない、つまらない家だなあ」と思った。空間が四角四面にきちんと収まりすぎて、逆に居心地が悪かったのである。
 私はそのとき、世間一般で言われる「大吉の家相」が万人に当てはまるわけではないことを知った。人の個性は十人十色だから、たとえ吉相でも合う・合わないがあるのである。
 現在は変形の間取りの家に住んでいるが、前よりずっと住み心地がいい。つまり家相の教科書では満点が取れなくても、自分が「別にいいじゃん」と思えばそれでOKなのだ。
 ただし「ゆがんだ部屋」「三角形の部屋」だけはすすめない。家具がしっくり収まらないし、デッドスペースができるから掃除が大変だし、何より圧迫感があって精神的にストレスがたまるからだ。 

 いろいろポイントをあげてみたが、「100%理想にかなう家」というのは存在しない。「ステキ!」と思う家はたいてい予算を大幅に超えているし、「相場より安いじゃん」と値段に釣られて見に行くと、「こんなとこに住んだら気が滅入るだろうなあ」とがっかりするものだ。がっかりが続くと「結局、買えませんでした」になるか、妥協してつまらない物件をつかむことになる。
 だから、「これだけは譲れない!」という最低条件を最初にしぼっておくといいと思う。
「女1人で住むから10階以上!」「料理が好きだからキッチンの広いとこ!」「愛犬と楽しく暮らせるとこ!」「子どもがいるから公園のそば!」「残業が多いから駅から徒歩10分以内!」などなど、自分なりのキャッチフレーズをつくっておけばたぶんブレない。 
 で、やっと決断して買ったマンションがもし「ダメだ、こりゃ」とか「住んでてちっともおもしろくない」などという場合、どうするか。
「大金払ったから」とガマンして住み続ける必要なんかない。話は簡単、売って別の家に住めばいいのである。
 ただし売るためには、「売れる部屋」であることが必要だ。今まで述べてきたポイントにかなっている家なら、売れる確率は高いと思う。

2010.02.17