春のお彼岸

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 風が強い。メアリー・ポピンズが「ギャアーッ」と悲鳴を上げて世界の裏側まで一気に吹き飛ばされそうなくらいの強風である。
 そういえば、もう春のお彼岸ウィークに入っている。この時期は例年強風が吹きまくるが、ことしも同じだ。

 お彼岸の時期は太陽が真東から昇り、真西へ沈む。
 西は西方浄土、つまり「あの世」の方位である。昔の人は「お彼岸の時期は最もあの世が近くなる」と考え、沈みゆく太陽に向かって手を合わせた。
 思いはこの世とあの世の境を越えて瞬時に通じる。祈りを受け取った彼方の者もまた、この世に生きる者たちに思いをはせる。すると彼岸(ひがん)と此岸(しがん)の間に神風が吹き、境界がめりめりっと避けて大きな道が通じるのだ。
 ふだんはあの世に携帯なんか通じないが、この1週間だけはあの世への携帯アンテナが3本立つ。もちろん、あちらからの通信もスムーズになるから、虫の知らせが多くなる。 
「お前、元気でやってるの」
「先に逝っちゃってゴメンね。寂しいかい」
「お父さん、あっちはとっても楽しいのよ」
「生きてるときはいぢわるしてゴメンね」
 あの世の人だって、言いたいことはたくさんあるのだ。

 お墓に行って菊を供えるのもいいし、夕陽をぼんやりながめるのもいいし、「おばあちゃんが好きだったなあ」と自宅でぼた餅をほおばるのもいい。それだけで、思いは通じると思う。
「思い出してくれてありがとう、そっちは大変だと思うけど、がんばって」
 あなたは寝ている間にそうささやかれ、ぎゅっと抱きしめられているに違いない。

2010.03.20