後ろ前

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 明け方、顔見知りの女性が夢に現れた。
「私、結婚するのです。お世話になりました」
「それはよかったですね。お幸せに」
 そう言いながら女性を見ると、真っ黒いオーバーを着ている。仕立てのよい上質なウールのオーバーは、品のいい彼女にとてもよく似合っている。だがよく見ると、後ろ前だ。
 あれ? 顔の下に後ろ身頃がきている。なんか変だなあと思っているうちに目が覚めた。

 洋服を後ろ前に着るのは、着物を左前に着ることと同じではないか。左前は死人前、つまり死人の着付けだ。
 もしかすると彼女、あまりよくない流れに身を置いているのだろうか。変な夢見ちゃったなあ、でも特別に親しい間柄でもないからよけいなおせっかいはできない、私にできるのは推移を見守ることだけだと思い、そのまま放っておくしかなかった。
 
 しばらくしてから、その女性が結婚したという噂を聞いた。その後、夢には一度も出てこない。「便りがないのは元気な証拠」であることを祈る。

2010.11.06