ヴァンパイア城

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 ある晴れた日の朝、大学病院へ。
 おだやかで気持ちいい日だね、中庭の紅葉がきれいじゃん、へえ今どきの病院はおしゃれなカフェとかコンビニとかあるの、受付も支払いも無人機かあ、建物吹き抜けでおしゃれだね殺風景なデパートみたいと最新の設備にいちいち感動する。自分が体調をくずしたわけではなく、付き添いなので気分は軽い。
 受付を済ませて検査室の待合へ行くと、朝いちで来たはずなのにすでに順番待ちの長蛇の列。うわあみなさんいったい何時に来たのと不思議に思う。きっと業界ならではの暗黙のルールというか必勝テクがあるのだと思う。
 患者が次々に検査室に吸い込まれては吐き出される。大学病院はとても合理的なシステムのもとで運営されている。
 名前を呼ばれるまでぼんやりガラス張り&吹き抜けの院内を観察。だだっ広い入り口から続々と患者が入ってきて受付作業を済ませるとエスカレーターでぐいーんと上り、それぞれ目的の階へ散らばっていく。世の中にはこんなにたくさん病人がいるのかと驚く。
 音楽が流れているようだが、かすかすぎてほとんど聞こえない。ブライアン・イーノのmusic for airportのような心の鎮まる環境音楽を流せばすてきなのにと思う。
 建物は広いし天井はガラス張りだし開放的な吹き抜けだし廊下のところどころに観葉植物が置いてあるのでこの病院には変な気が溜まってない、でも決して楽しいところではない。

 検査が終わり、会計を済ませて外に出るとすでに昼。さあ昼飯でもがつんといきましょうかと一歩踏み出してから気づく。あれ? 元気ないぞ自分。別にどこがどうというわけではないが萎えている。
 今日はぽかぽかして快適じゃんとウキウキする身体の中で、「いやあそんな、それほどでも」と心がどんよりとぐろを巻いている。
 なぜこういうアンビバレンツが起こるのか。
 話は簡単、病院で気を吸い取られたのである。
 病院とは体内の気が陰に傾いた人間が集まる場所だ。そこに陽の気が満ちた人間が行くとどうなるか。浸透圧の作用で陽の気を吸い取られてしまうのである。結果、どこも悪くないのに気持ちが沈む。
 うわあやべえ陰気に傾いちゃったとしばらく日なたで太陽光線を浴び、帰宅してから着ていた服をバサッと洗濯機に放り込んで新しい服に着替え、気を取り直した。 

 相対するだけで精気を奪われてぐったりしてしまう相手をエネルギーヴァンパイアと呼ぶが、建物にも「行くだけで疲れる」とか「そこで過ごすだけでゆううつになる」という空間がある。それを「ヴァンパイア城」と呼ぶ。
 ヴァンパイア城に長居は無用。帰還したら速攻で塩風呂に入り、衣服をすべて取り替えてから(繊維には気がからみつく)、温かい飲みもの&甘いものなどでじんわり自分を取り戻すのがパワーゲージ回復のルールである。

2010.12.01