土踏まず

 人生にはものすごくストレスの溜まる時期というのがある。無我夢中で生きてるけど肩は凝るし頭痛はするし微熱は出るし下手するとぎっくり腰になるし何だかすべての歯車がかみ合ってない、どろどろのぬかるみに膝までつかりながら必死に走ってる感じ、これでいいかどうかわからないけどとりあえず自分の心身に蓋をして前に進むしかない、という時期である。
 そういうときにストレスをほったらかしにしてズンズン突き進むとどうなるか。足の裏が痛み出すんですね。

 私が最初にそれを経験したのは20代後半だった。仕事とプライベートの両面で過剰な負荷がかかり続けていたある日、突然右足の裏が痛み出し、歩けなくなった。別に靴が合わないわけではない、足をひねってねんざしたわけでもない、歩きすぎて疲れたのかな? と脳天気に放っておくうちどんどん痛みが増し、やがてじっとしていても激痛が走り、眠るのにも支障を来すようになった。
 右足の裏の土踏まず周辺を触ると、ガチガチに固くなっている。少し押すだけでギャッと飛び上がるほど痛い。湿布をしてもまったく効果なし。
 仕方ないので、ある晩意を決し、足の裏を自力で揉みほぐした。痛みで悶絶しそうだった。それが功を奏したのか、痛みはしばらくするとウソのように引いた。(注:みなさんは真似しないできちんと病院へ行ってくださいね。)

 2回目に経験したのは30代前半だ。自分を取り巻く情況はやっぱり暗黒で、毎日「あーあ」な気分で過ごしていたある日、突然足の裏が痛み出した。「あ、まただ」と思った。

 痛みを無視して知り合いと待ち合わせて酒を飲み、店を出ると足の裏で体重を支えることが不可能になっていた。前回と同じ右足である。仕方ないのでタクシーで帰宅し、その晩、うぎゃっとかあふぇっとか忍び泣きながら足裏を揉みほぐした。
 痛みで気を失いそうになりながら、「この状態は前とまったく同じ、そういえば前もストレスてんこ盛りのときだった、そうか、心身に溜まったストレスは足の裏から排出されるのだな」と気づいた。
 心身にむち打ってがんばり続けると、つまり「負けるものか」と無理に硬直し続けると、足の裏もギュッと硬直し、排出されるはずのストレス=厄がスムーズに出なくなって「厄詰まり」を起こすのだ。出るものが出ずに溜まり続けると猛烈に痛い。
 そのときから「足の裏が痛むときは心身が疲れている証拠」と心して、早めにケアするようにした。今でも時たま痛むことはあるが、無理をしないよう心がけているおかげで昔のようにガチガチに凝り固まるようなことはない。 
「足つぼマッサージ」とか「足裏健康法」の人気が衰えないのは、「足の裏はいつも柔らかくほぐしておかないとやっかいなことになる」と、みんなうすうす知っているからではないだろうか。

 余談だが、一日働いて帰宅して靴を脱いだときの足のにおいは、心身から排出された厄のにおいではないかと思う。冬より夏のほうがにおいがきついのは、汗に促されて厄もたっぷり流れ出るからである。
「うわっあたしの足くさい、信じられないくらいくさい」と落ち込む必要なんかない、それはあなたが一日がんばって働いたことの証なのだから。

 
2011.10.22