日当たりの悪い家

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 近所に高層マンションが建った。東、南、西の三方が開けているから日当たりがよくて住み心地がいいだろうなと前を通るたび思っていたのだが、つい最近、そのマンションのそばに別の高層マンションが建った。
 敷地の広さはほぼ同じ、よって建物の構造・規模もほぼ同じ。新しい建物の位置は古いマンションの南側。これは受難である。・・・・・・北側に位置するマンションにとって。

 風水や家相における「吉相の家」の定義は、1に日当たり、2に風通しのいい家だ。
「東に青龍、西に白虎、南に鳳凰、北に玄武(亀)」と古来言われるように、東に川、西に道が伸び、南が大きく開け、北に大きな山があるのが四神相応の吉地とされるものの、現代の住宅事情ではそういう理想的な環境を手に入れるのはなかなか難しく、どこかで何かを妥協しなければならない。
 がそれでも、「1日のうちのどこかで日が当たること」は絶対必要条件として守られねばならない。なぜなら人は誰しも、太陽光線から生きるエネルギーをもらっているからである。
 外に干した衣類の肌ざわりを心地よく感じたり、日に当てたふかふかの布団で寝るとぐっすり眠れたり、日当たりのいい部屋にいると気持ちが明るくなるのは、太陽の気=陽気を体内に吸収しているからだ。

 数年前、仕事でとある家を訪問したことがある。3方を背の高い建物に囲まれて、まったく日の当たらない家だった。
「この家に住むようになってから、私、うつ病になってしまいましてね」
 病気になった心当たりはまったくないのですが、と奥さんは薄く笑う。
 あ、でも、と付け足した。
「ここに住み始めて間もなく、かわいがっていた犬が死んでしまったのです」
 普通ではあり得ないような事故死だったという。
 家の中を見渡すと、晴れた昼間なのにぼんやり薄暗い。
「暗いでしょう? 両隣と裏を他の家にぴったり囲まれているので、朝から晩までずっと灯りをつけっぱなしなんですよ」
 この奥さんのゆううつの原因は毎月届く電気料金の請求書より、日光不足と風通しの悪さではないかと思った。
 光と風が家に入らなければ、家の中に陰の気がどんどん溜まってしまう。よどんだ陰の気は邪気を呼ぶ。邪気の影響を最初に受けるのは、その家で最も弱い者だ。

 しばらく滞在するうち、時間の経過とともに頭痛と吐き気がひどくなってきた。
 夕方にようやく仕事から解放され、よろよろになって同行者とその家を後にした。ふと見ると、同行者の顔も白い。どうしたのと聞くと「入ったときから頭痛と吐き気がひどくて、こらえるのに必死だった」と答える。同行者も自分と同じように感じていたのだ。
 帰宅してからすぐに塩風呂に入ったことは、言うまでもない。

2012.03.05